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日本人が語る鉄道風景

『な〜るほど・ザ・台湾』片倉佳史のもっと知りたい台湾 2007年9月号掲載


 先月、2人の日本人が台湾で書籍を刊行した。その名は『台湾黄昏地帯』( 繆思文化出版)。著者は埼玉県在住の山崎勉、千葉県在住の米沢光敦の両氏。 言うまでもなく無類の台湾好き、そして鉄道好きの2人である。

 2人と私は旧知の間柄で、何度か旅をともにし、撮影や録音を楽しんだことがある。両氏とも台湾の鉄道に関するウェブサイトを運営しており、多くのファンがいる。米沢氏によると、出版社から打診があったのは2年ほど前で、サイトのコンテンツを写真付きで翻訳出版したいという申し出だった。ちなみに、本書のタイトル『台湾黄昏地帯』は、米沢氏のウェブサイトをそのまま用いている。

 本書の軸となっているテーマは「日本人が見た台湾鉄道の魅力」。台湾各地の鉄道風景をファンの視点で思うままに切り取り、たっぷりと紹介している。亜熱帯を駆け抜ける列車たちは表情がとても豊かで、全く退屈しない。翻訳出版ということで、苦労も多かったはずだが、著者のみならず、デザイナーや翻訳者、編集者たちの情熱までもが伝わってくる一冊である。 

 この本が巷に溢れる鉄道本と一線を画しているのは、高速鉄道や特急列車などといった花形スターではなく、日頃は注目されることもない産業鉄道や鈍行列車を積極的に取り上げていることだろう。中には現役を退き、人々から忘れ去られてしまった車輌群や遺棄された鉄道施設、廃駅舎、廃線跡なども紹介されている。これらはいずれも人々の暮らしとともに存在し、密接な関わりをもってきた遺構である。当然、そこには「魂」が宿っているし、人々の側にも計り知れない思い入れがある。両氏はそこに台湾ならではの趣きを感じたようだ。ものを語らぬ産業発展の功労者たちは、本書の中で目映いばかりに輝いている。 

 メインに据えられている製糖鉄道は、サトウキビ農場と製糖工場を結ぶ小さな鉄道だ。軌道幅は七六二ミリとミニサイズで、車両もおもちゃのように小さい。一般の鉄道に比べると造りも簡素で、速度にいたっては自転車並み。しかし、時には便乗という形で旅客輸送をも行い、住民の足となっていた。競争力の低下から最近は次々に廃止されてしまったが、その姿を愛する人が多いのも事実。ここ数年は観光開発の一環としてこの鉄道を見直す動きが盛んだ。もちろん、本書でもそのいくつかを紹介している。 

 本書を手にした読者は、きっと「懐かしさ」という表現を用いて感想の言葉とするだろう。しかし、その中には現在進行形の台湾風景、そして、人々の暮らしぶりも感じ取れるはずだ。読むことはもちろん、本書を手に現地を訪れ、そこに漂う「匂い」を感じ取ってみてほしい。

 

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